TL;DR
- Googleが開発した「ERA(Empirical Research Assistance)」というAIシステムが、科学論文のためのソフトウェアを自動生成できるようになった
- LLM(大規模言語モデル)と木探索アルゴリズムを組み合わせて、複雑な研究課題に対応する専門レベルのコードを生成
- 単細胞生物データ分析で40個の新手法を発見。COVID-19入院予測ではCDCアンサンブルより高精度
- 地理空間解析、ゼブラフィッシュの神経活動予測、積分の数値解法など、多分野で実績
- Nature誌に掲載(2026年5月19日公開)
この概要はAIが生成しています
科学者が論文を書く。でもその前に、膨大なコードを書かなければいけない。データを解析するため、シミュレーション走らせるため、統計モデル組むため——。実は研究のボトルネックは、わざわざ誰も話さない、ここがかなりの比重を占めると思う。
Googleの研究チームが発表した「ERA」というシステムを見て、私が直接何か恩恵にあずかるわけではないが、AIがようやく、研究者の「本当の困りごと」に取り組み始めたんだなと、なにか安堵に近いものを感じた。
ERAとは、どんなシステムか。
2026年5月19日に Nature に掲載された論文では、このシステムの全容が明かされている。簡潔に言うと、ERAは大規模言語モデル(LLM)と木探索アルゴリズムを組み合わせたAIだ。
木探索:根から枝分かれするデータ構造を順にたどって目的のデータを探す手法
どう動くかというと、研究者が「こういう分析がしたい」という目標を与えると、AIが複数の解決策を考え出す。その中から品質メトリクスが高いものを選んで、さらに改善していく。という感じで、自動的に「専門レベルの」ソフトウェアを吐き出す。
ここで重要なのは「専門レベル」という点だ。ChatGPTみたいな汎用AIが「Pythonでデータ分析コード書いてよ」といったありきたりな要求に応じるのとはわけが違う。ERAは科学研究という特定のドメインで、本当に使える高度なコードを生成するように設計されている。
実は、自動コード生成システムは昔からあるが、大抵は短い補助関数レベルの話だったり、バグだらけだったりする。でも ERAの出力は「実験に使えるレベル」で、かつ外部の複雑な研究アイデアも統合できる。これはシンプルだが真に必要なことであり、本当にすごいことだ。
本当に動くのか、具体例から見る
単細胞生物分析:40個の新手法を発見
もっとも印象的なのは、生物情報学での成果だ。ERAが生み出した40個の新しい手法が、公開リーダーボード上で人間の専門家が作ったトップメソッドを上回った。
40個だ。これはどういうことかというと、AIがただ既存コードを組み合わせているのではなく、研究空間を探索して、人間の典型的手法を繰り返し試行・組み合わせた上で、更に人間のトップメソッドを超える新しい組み合わせや設計を「発見」しているということだ。ここまで行くと「自動コード生成」ではなく「研究支援システム」と言う方がしっくりくる。
COVID-19入院予測:CDCより精度が高い
次に疫学だ。ERAが14個のモデルを生成し、それらがCDCアンサンブルや他のあらゆる個別モデルの精度を上回った。CDCのアンサンブルとは、複数の優秀な研究機関の予測を組み合わせたものだ。それより上であるというのだから、かなりの説得力がある。
CDCアンサンブル:アメリカ疾病予防管理センター(公衆衛生を司る政府機関)が主導する、複数の優秀な研究機関の予測を組み合わせたモデル群
ここで思うのは——この成果、単純に「より複雑なモデル」を試しているだけなのか、それとも汎化性能を保ったうえでの最適化なのか、論文からは厳密には判然としない。しかし論文の説明を読む限り、ERAは「品質メトリクスを最大化する」という約束された目標に向かって、地道に改善している。つまり、過学習を避けつつ汎化性能も保っている、ということになる。
その他、意外な領域
地理空間解析、ゼブラフィッシュの神経活動予測、積分の数値解法、時系列予測用の新しいルール——。見てるだけで「あ、こういろんなとこで研究は詰まっていたんだ」とわかる。各分野で一人や二人の「コード書く人」が重宝される理由がわかる気がする。
これ、本当に科学を加速させるのか
ここからは個人的な懸念だ。
ERAが「専門レベルのコード」を生み出すことは、もう証明されている。しかし、これを使う研究者たちが、生成されたコードを本当に理解してるのだろうか。ブラックボックスの向こうから「人間のトップモデルを上回る精度を持つモデル」が出力されて、それをそのまま論文に使うケースが増える。査読者は?再現性は?とAIあるあるに近い心配をしてしまうのも本当のところだ。
論文とは、通常は「私たちはこういうコードで分析しました」という部分を詳しく書くものだ。しかしAIによる生成だと「ERAにこう言ったら、このモデルが出てきた」になる。それは新しい形式の論文の種類が必要になるということかもしれない。
それと、AIが「複雑な研究アイデアを外部ソースから統合して」新しい方法を開発する、という点について、非常に面白くワクワクすることだが、著作権や引用の問題はどう扱うのだろうか。出力コードが、既存の有名論文のコードから少しパラメータを変えただけだったとして、判別がつくのか。
今後の研究が変わるか
正直に言えば、このシステムの登場で、2-3年後には「ソフトウェア開発で時間を喰っていた」という研究者の悩みは大幅に減るんだと思う。そこは間違いない。
ただ、新しい問題も出てくる。AIが作ったコードは、修正する際に誰が責任を取るのか。査読プロセスはどう変わるのか。そして一番大きい問題は、AIが得意な分野(データ解析、予測モデル)でどんどん論文が増えるのに、逆に AI が苦手な領域(実験設計の工夫、理論的ブレークスルー)への注目が相対的に薄れないか、ということ。
それでも、科学の進め方として、この転換点は来るのだろう。むしろ、来ないと競争力が落ちるし、既に来ていると言える。だから考えなければいけないのは「AIに何をさせるか」「AIに任せてはダメなとこはどこか」という線引きを、学術コミュニティが早めに作ることが、今後円滑にこの技術が発展していく地味だが必要な要素だと考えている。
ERAの登場は、テクノロジーとしては非常にすごい一歩だが、それを使う側の準備がまだ整っていない気がしないでもない。
※この記事は、Nature 論文の成果を解釈・要約したものであり、論文の公式な解釈や数値を完全に再現するものではないことに注意してください。
An AI system to help scientists write expert-level empirical software


